終 章

2/3
前へ
/20ページ
次へ
Sea is      「海へ行こう」    僕の誘いに彼女は小さく頷いた。とても魅力的だったけど、もっと素敵な笑顔を知っている。それはどこへ置いてきた?  初春の海は穏やかだった。浜辺には白い貝殻が落ちていて、ふたりでゆっくり拾い集めた。    貝の端が欠けていると彼女が嘆いた。でもそれは悪い事じゃないと僕は伝えた。何かを補うために正しく在ろうとする姿は、美しいと思わないか?    僕の言葉に彼女は納得したようで、満足げに採集へと戻って行った。    その時僕はひらめいた。儀式だ。これから儀式を始めよう。  まずはあの高台に登り、お祈りをする。そして口づけのために君はちょこんと背伸びをするんだ。僕は貝殻を抱えたままだし、君はとても小さいからね。   それが済んだらこの落し物を海へ還そう。    両手いっぱいの貝殻を、ぽーんと海へ放ったら、冬の星座みたいにきらきらと、水面に消えゆく事だろう。  やがて水しぶきを上げて女神が現れる。金か銀かと聞かれたら、君の笑顔だと答えるつもり。きっとすぐに返してもらえる。  海が微笑む。藍を涙で溶かした色だ。  冬が終わり、春が来る。  ルルル小さな鼻歌が聞こえる。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加