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部屋の中は家具の一つも無い、空き箱のような空間だった。
唯一、部屋の中心に石像が一体あるのみで。
「……何もないね。戻ろ」
和葉は拍子抜けして踵を返したが、スミレはその場から動かない。
そのまま部屋の中央へ足を進めると、石像の前でぴたりと止めた。
それは女性を形どった像だった。
胸のところで手を組んで両目を閉じている姿。
まるで祈りを捧げているように、神聖で美しい。
「……生きているみたい」
スミレの手が、まるで吸い寄せられているかのように像の女性の頬に触れる。
扉の前まで来ていた和葉も、近くで像を見ようと一歩踏み出した瞬間。
……駄目
「え?」
空耳かと思ったが、そうではなかった。
私に触っては駄目!
「……っ!?」
和葉は顔を上げてスミレを見た。
しかしこの暗がりの中、正確に彼女の姿を捉える事はできない。
「……スミレ?」
和葉はスミレの様子が見える位置まで恐る恐る近づいていくと、
「……嘘」
ぺたりとその場に座り込んでしまった。
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