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何だろう……
いきなり部屋が光り出して、それから……
「さっさと起きろ」
「……ん」
どこかで聞いた覚えのある、冷ややかな声。
ユイの頭がゆっくりと働き始める。
突然の光、この宙に浮いているような感覚。
そして、左半身にのみ感じられる温もり。
まるで誰かに抱きかかえられているような感覚に、脳が小さな警報を鳴らす。
それは徐々に大きくなり、やがて完全に覚醒したユイはぱっちり目を開らいた。
すぐ側に見知らぬ顔がある。
「!?」
「ようやく目覚めたか」
冷たい金の瞳と淡々とした声。
(……何この人?)
ユイは体中に緊張を走らせ、この目の前の人物を見つめた。
艶やかなショートの黒髪に雪の肌。
月を思わせる金の瞳は冷たい光を宿している。
声で辛うじて男性だと認識できる。
が、中性的な印象のあるその整った顔に、ユイの瞳は釘付けになっていた。
「……何だ」
男が不機嫌そうに眉根を寄せたのを見て、ユイはとっさに周囲へと視線をそらす。
そこでふと、あることに気付いた。
「……あれ?」
先ほどまで室内にいたはずのユイの瞳に飛び込んできたのは。
鬱蒼とした深い森。
「……え?」
絶句し、辺りを見回そうとした所で、ユイは自分の体がこの男によって横抱きにされている事に気が付く。
「……下ろしてください」
男の胸をそっと押して、腕の捕縛から逃れた。
地面に足のついたユイは目の前の開けた道を少し進んでいき、辺りがよく見回せる所までくるとぴたりと足を止めた。
夜に染まった空には、満天の星と青白い満月と赤い満月が輝き、耳をすませば獣の唸り声や遠吠えばかり。
この道を下った所に集落でもあるのか、暗闇の中にぽつぽつと灯りが見える。
少なくとも、あれが自分の町でない事は明らかだった。
「ここは……」
「魔界だ。ただし、100年程昔だがな」
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