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「私が、望んだ?」
男は黙って頷く。
だが、ユイは栗色の髪を大きく揺らし、かぶりを振ってそれを否定した。
「納得いかない! それに、今はこんな所にいる場合じゃ……」
「治す方法を知りたいのだろう?」
その一言に、ユイの藍色の瞳は大きく見開かれた。
(……あの部屋で聞こえてきた声……この人!)
驚きで固まるユイを一瞥した男はすっと前に進みでて、
「きゃっ!」
無言で彼女を脇に抱えて走り出した。
それはまるで疾風の如き速さ。
あまりの突然の事に、ユイはたまらず悲鳴を上げた。
「離して!」
「騒ぐな」
ユイの訴えを一蹴し、男は更にスピードを上げる。
ユイは暴れたが男の腕から逃れる事は出来なかった。
これはもう何をしても無理だとユイは諦め、一切の抵抗をやめた。
体中の力を抜き男に身体を預ける。
男は怪訝な顔をして、ちらりとユイを見た。
「吠えるのは止めたのか?」
「……静かにするから、ちゃんと説明して」
気持ちをどうにか落ち着けて、一言そう呟く。
――今は知らなきゃいけない、そう思うから。
此処が何処か?
スミレに何があったのか。
これからどうするのか。
貴方は……誰なのか。
「お願い」
「……ああ」
男は静かに頷いた。
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