「一章」

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「私が、望んだ?」 男は黙って頷く。 だが、ユイは栗色の髪を大きく揺らし、かぶりを振ってそれを否定した。 「納得いかない! それに、今はこんな所にいる場合じゃ……」 「治す方法を知りたいのだろう?」 その一言に、ユイの藍色の瞳は大きく見開かれた。 (……あの部屋で聞こえてきた声……この人!) 驚きで固まるユイを一瞥した男はすっと前に進みでて、 「きゃっ!」 無言で彼女を脇に抱えて走り出した。 それはまるで疾風の如き速さ。 あまりの突然の事に、ユイはたまらず悲鳴を上げた。 「離して!」 「騒ぐな」 ユイの訴えを一蹴し、男は更にスピードを上げる。 ユイは暴れたが男の腕から逃れる事は出来なかった。 これはもう何をしても無理だとユイは諦め、一切の抵抗をやめた。 体中の力を抜き男に身体を預ける。 男は怪訝な顔をして、ちらりとユイを見た。 「吠えるのは止めたのか?」 「……静かにするから、ちゃんと説明して」 気持ちをどうにか落ち着けて、一言そう呟く。 ――今は知らなきゃいけない、そう思うから。 此処が何処か? スミレに何があったのか。 これからどうするのか。 貴方は……誰なのか。 「お願い」 「……ああ」 男は静かに頷いた。
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