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――ある新月の晩、ある町外れの廃墟と化した館の門前に、二つの人影があった。
その風貌は新月の作り出す闇に飲まれ、知ることは叶わない。
「ここが……そうなの?」
小さな震えが感じ取れるか細い問いかけに、静かに館を見上げていた影が頷いた。
「"あれ"があるのは此処です。間違いありません」
優しい声色で答えた影は、右手でそっと門に触れる。
何年もの間、開かれることの無かったそれはギィィ、と酷く耳障りな音を闇に響かせてゆっくりと開いた。
「さぁ、行きましょう」
門の隙間に滑り込んだ影が差し出した手を無視し、もう一方の影も門の中へと進む。
「……そうね。 もう、時間がないのだから」
…………
二つの影を飲み込んだ門は、音もなくその口を閉ざした。
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