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「ユイちゃん! 今日、あの町外れの幽霊屋敷に行こう!」
ある放課後の一時、松山和葉のあまりに唐突な提案に、村西ユイの眉間に深い皺が刻まれた。
「……いきなり何? 本気で言ってる?」
「もちろん!」
「……」
「あれ? なんか顔が恐いよ」
「……」
据わった藍色の瞳からの鋭く冷ややかな眼差し。
そして無言の圧力。
これらは一言悪態をつく以上に相手を竦ませ、萎縮させることができる。
真正面からそれを受けた和葉は天敵に目を付けられた小動物さながら、今まで二人をのんびり傍観していたもう一方の友人、大堂寺スミレの背後に素早く身を潜ませた。
スミレはやんわりとした微笑を浮かべて、慣れた手つきでふわふわした和葉の黒髪を撫でてやる。
「ユイちゃん、和葉の唐突さと迷惑さは今更でしょう? いちいち睨まないの」
「それはそうなんだけど……」
ようやく口を開いたユイに、隠れていた和葉はほっと安堵の息を漏らしてひょっこり顔を覗かせる。
―― 二人のやりとりに何か釈然としないものを感じるが、それは一先ず考えないことにした。
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