「一章」

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ユイがあそこまで『幽霊屋敷見学』を拒否するのには理由がある。 実に単純明快。 幽霊が怖い。 お化けが怖い。 非現実的なものが怖い。 ただそれだけだ。 子どもの頃は平気だった。 寧ろ、ユイ自らがそういうものが見えるのを楽しみ、蹴散らすのを趣味としていた時期もある。 ――ある事件が起こるまでは。 その一件以来、ユイは一切それらを見ないように、無意識に『眼』を閉ざした。 そして、恐れるようになった。 ――そのことを、幼稚園からの付き合いの二人は知っているはずなのに。 「本当に悪趣味!」 鼻息荒く自宅の玄関に入ったユイを迎えたのは。 「……和葉ちゃんの親が来てる」 「……!?」 仮面のように無表情な女性の淡々とした言葉だった。 彼女の名は村西麻乃、ユイの母親だ。 麻乃は鋭く冷ややかな、本来なら実の娘に向けられるはずのない目で彼女を一瞥すると、顎でリビングの扉を指す。 ユイは靴を脱ぐと無言で麻乃の横をすり抜け、急いでリビングに向かった。 ――嫌な予感がする。 リビングへの扉の前で深呼吸すると、意を決してユイは中へと進んだ。 「あ、ユイちゃんおかえり!」 「ごめんなさいね。いきなり来たりして」 妙に明るい笑顔の松山夫妻の挨拶に、嫌な予感は最悪な現実と変わった。 「……あの馬鹿、絶対殴る」 殺意溢れるギラギラした瞳でぼそりと呟いて、ユイは顔を上げる。 そしてにっこり二人に微笑みかけた。 「私行きませんから」 その一言で遠山夫妻の笑顔が瞬時に強張る。 「……あ、あの」 「"和葉が頼んだから"でしょ? 嫌です」 絶対に。 絶対零度の藍の双眸で、そうきっちりと念を押すこともユイは忘れなかった。
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