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ユイがあそこまで『幽霊屋敷見学』を拒否するのには理由がある。
実に単純明快。
幽霊が怖い。
お化けが怖い。
非現実的なものが怖い。
ただそれだけだ。
子どもの頃は平気だった。
寧ろ、ユイ自らがそういうものが見えるのを楽しみ、蹴散らすのを趣味としていた時期もある。
――ある事件が起こるまでは。
その一件以来、ユイは一切それらを見ないように、無意識に『眼』を閉ざした。
そして、恐れるようになった。
――そのことを、幼稚園からの付き合いの二人は知っているはずなのに。
「本当に悪趣味!」
鼻息荒く自宅の玄関に入ったユイを迎えたのは。
「……和葉ちゃんの親が来てる」
「……!?」
仮面のように無表情な女性の淡々とした言葉だった。
彼女の名は村西麻乃、ユイの母親だ。
麻乃は鋭く冷ややかな、本来なら実の娘に向けられるはずのない目で彼女を一瞥すると、顎でリビングの扉を指す。
ユイは靴を脱ぐと無言で麻乃の横をすり抜け、急いでリビングに向かった。
――嫌な予感がする。
リビングへの扉の前で深呼吸すると、意を決してユイは中へと進んだ。
「あ、ユイちゃんおかえり!」
「ごめんなさいね。いきなり来たりして」
妙に明るい笑顔の松山夫妻の挨拶に、嫌な予感は最悪な現実と変わった。
「……あの馬鹿、絶対殴る」
殺意溢れるギラギラした瞳でぼそりと呟いて、ユイは顔を上げる。
そしてにっこり二人に微笑みかけた。
「私行きませんから」
その一言で遠山夫妻の笑顔が瞬時に強張る。
「……あ、あの」
「"和葉が頼んだから"でしょ? 嫌です」
絶対に。
絶対零度の藍の双眸で、そうきっちりと念を押すこともユイは忘れなかった。
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