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「こ……こんばんは」
「貴女は私を殺す気ですか? 死ぬかと思いました」
(それはこっちの台詞だよ)
ユイは苦笑いして、梓に訊ねる。
「梓さんこそ、うちのドアを何枚弁償する気ですか?」
その問いに、梓の口元にはにかんだような小さな笑みが浮かび頬がほんのり赤く染まる。
(いや、照れるところじゃないから……)
喉まで出かかったツッコミを飲み込んで、ユイはそっとドアを閉めた。
そして梓の手を引く。
「早く行きましょう。車はどこに?」
「近くの空き地に」
「じゃあさっさと行きましょう」
――これ以上騒がしくしてあの人の機嫌を損ねると後々面倒だ。
「その様な薄着で大丈夫ですか?」
「ん?」
梓の手を引きながら、ユイは自分の格好に目を走らせる。
クリーム色したタートルネックのノースリーブにGパン、二の腕の半分もある服と同じ色のアームウォーマー。
そして季節は11月。
「全然平気です」
遠ざかる我が家を盗み見て、ユイは歩くスピードを速めた。
――とりあえず早く家から離れたい。そして……
早くあいつらに一発くれてやりたい。
ニィと真っ黒な笑みを浮かべ、ユイは梓の手を強く握った。
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