「一章」

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その頃、一足早く屋敷の前にやってきた和葉とスミレは、ユイの到着を待たずに屋敷の中へ入り込んでいた。 「うー…真っ暗で何も見えないや」 入り口を閉めて周囲を見渡した和葉は、はぐれないようにスミレの服の裾を掴む。 それを感じたスミレはゆっくり前進を始めた。 「視界さえ慣れれば大丈夫だよ。懐中電灯を持ってこなくて正解だね」 和葉は頷く。 「へたに懐中電灯で照らすと、怖くない物まで怖く見えることもあるし」 「特にユイちゃんは!」 同時に出た台詞に、二人はぷっと吹き出してしまった。 「……あ、階段だ」 手探りで進んでいたスミレが、手すりを掴み階段を上がる。 和葉もその後に続いて慎重に進む。 ギィィ 軋む音を立てて階段を上りきると、闇に慣れてきたスミレの目が、その突き当たりに何か扉のようなものを捉えた。 「どうしたの?」 和葉が顔だけを脇からひょっこり覗かせる。 「部屋があるみたい」 スミレは扉に近付くと、微かにドアノブを引く。 鍵は掛かっていないようだ。 「入ってみよ!」 「でもユイちゃんを待った方が……」 「ユイちゃんが気絶するほどの物があったらどうするの?」 そういうのがないのか確認するために早く来たんだから、そう言って笑う和葉に観念して、スミレはゆっくりドアを引いた。
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