檸檬の木

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 大宮から仙台までの新幹線の中で、僕はゆうべ作ったゆで卵を食べる。外はまだ薄暗くて、車内の席も空きが目立つ。  ゆで卵をこつこつ、と叩いて皮をむく。卵の中央のいちばん円周の長い胴体に沿ってくるりと一周ひびを入れる。あとはそのひびの部分を少しずつ剥がして上下の皮を外すだけだ。  僕はこの作業に十分に時間をかける。ゆで卵の皮むきにはいくつもの哲学的な思想が介在しているから、集中しなければならないのだ。
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