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美紀が檸檬の木を庭に植えたのは一昨年の夏だ。
「檸檬にしようよ」
植木のカタログを繰りながら僕たちは縁側で日向ぼっこをしていた。小さくて古いながらもそれは間違いなくわれわれの『家』で、申し訳程度のせまい庭は、それでも僕たちにとって特別な存在だった。
埼玉に二人で越してきたとき、彼女が庭に木を植えたいと言って二人で不動産屋を探し歩き、ようやく見つけたこの家は二人ともいっぺんで気に入った。平屋だけれど庭と縁側があって、郷愁に似た情緒が家全体に染み込んでいたのがとにかく魅力的だった。
「檸檬?」
僕は足の爪を切りながら、彼女は体育座りで、カタログを見ていた。
「なんでまた檸檬?」
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