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緑生い茂る木々の季節。さんさんと降り注ぐ太陽の光は確実に彼女の体力を蝕んでいた。
しかし、彼女はそれすらも厭わないように、ただひたすらに走り続けていた。
時は8月、正午2時。厳しいと言われている運動部さえもこの時間は休憩にするものだ。暑さが選手の体力を悪戯に蝕むと指導者達は知っているからだ。
それなのに彼女は走り続けていた。近付いてきたゴールに顔を綻ばせながら、ただひたすらに。ゴールであろうその場所には彼女と同い年の少年が立っていた。彼女に向かって何かを叫んでいる。
『50ー、51ー、52ー、5分52秒ー。さっきより3秒遅い』
ゴールに辿りついた彼女はそんな彼の言葉を耳にいれつつ、近くの木陰に荒い呼吸のまま倒れこんだ。そんな彼女に叱咤の声が降る。
『こら』
その言葉に彼女が目を少年に向けると、少年は彼女の目の前に立っていた。
『走った後は足踏みだろ?』
そういった少年を彼女はぼうっと見つめて、にへらと笑った。
『起こして?』
そういった彼女を少年は一瞥した。
『なぁに甘えてんだよ、泉』
少年に泉と呼ばれた少女は、起こしてくれても良いじゃん、けちー。などと少年にぐちぐち言いながらゆっくりたった。その際ふらつき少年に支えられると舌打ちし、支えてくれるなら最初から起こしてよ、などと理不尽な事をまたぐちぐち言いはじめた。
そんな泉を少し笑いながら、本当甘えてんじゃねーよと少年は泉にでこぴんした。泉は唇を尖らせながら少年を睨む。
『痛いだろ、陸』
でこぴんを当てられたところを泉がさすっていると、陸が泉を凝視した。
じぃっという効果音がつきそうなその眼差しに眉をよせながら泉は陸に、何?と聞いた。陸はタオルを渡しながら泉の質問に答える。
『いや、おまえ進路決めたのかなって』
タオルを受けとりながら泉は少し固まった。泉、陸ともに中学3年生。中学3年生の8月ともなれば部活を引退し、スターターが遅い生徒でも真面目に進路を考えはじめる時期だ。
二人が入っている陸上部は8月末に連合体育大会があるために未だ引退はしていないが、それでも進路は考えはじめなければならない。固まった後泉はふるふると頭を振ってニッコリ笑ってみせた。
そして、
『進路って何?』
と一言言ってみる。もちろんこんなぼけを陸が許すはずもなく、陸は泉の首を軽くしめた。
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