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触れる手
先日、蒸発していた父がふらふらと帰ってきた。
胃癌という手土産をぶら下げて――
そんな父を母や兄姉は恨み言一つ言わず受け入れた。
そして2ヶ月後
呆気なく逝った父
家族に見守られ――
いつも豪快な、強い母の涙を久しぶりに見た。
ねぇ、母ちゃん?
あたし怖いよ。
いつかは貴方も
あたしを置いて逝くんでしょ?
今は憎まれ口を叩きながら、それでも小さくなった体で、貴女より大きくなった子供達を守ってくれている。
貴女は年を取り、おばぁちゃんになったのにね?
いつもは年を感じさせない母だけど
貴女の丸くなった背中
しわしわの手
足腰が痛いと呟く姿に
いつか来る別れを感じて
怖くなるんだよ?
体の悪い母と兄姉と
みんなで力を合わせて
生きてきた。
贅沢らしい贅沢も出来ず
貧乏を、母子家庭の辛さを知っている貴女は
孫にまでそんな想いをさせたくないと、服を買ってくれたり、玩具を買ってくれたり――
少ない年金を
いつまでも子供や孫のために使ってくれている。
そんな貴女は
幸せなのだろうか?
大好きなタバコも止め
3度の飯より好きなパチンコも止め
唯一の楽しみは花弄り
電話をかけてくると
決まってまだ喋れない孫と宇宙語で話をする
そんなことが
貴女の楽しみ――
母ちゃんは幸せ?
貴女に直接聞いたことは無いけれど、それは愚問だと気付いたよ。
だってね?
どれだけきつい生活をしていても
「ママ!」と笑いかけてくれる我が子の顔や
小さな手が触れると
その小さな手からたくさんの愛を感じて
あたしは幸せだから――
きっと貴女も
こんな想いであたし達を
育ててくれたんだね?
母ちゃん?
貴女は幸せだとあたしは信じてる。
金持ちが幸せなんじゃない。
遊びほうけてる人が幸せなんじゃない。
守りたい家族がいる人が
幸せなんだよね?
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