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恋した瞬間
「寒―――いッ!」
ある冬の日。
放課後の教室でたわいもない話で盛り上がり、帰る頃には辺りは真っ暗になっていた。
「遥菜はバス通学だよね?圭汰と2人だけど、襲われないように気をつけてね☆」
「バァカ」
裕美の言葉を圭汰は動揺することなく、さらりと流す。
だけどあたしはちょっぴりドキドキして、微妙な距離を保ちつつ圭汰と二人、バス停へと向かった。
「マジ寒いなぁ」
「うん」
それまで意識なんかしたことなかったのに、裕美の言葉であたしは変に圭汰を意識していた。
ちらりと圭汰を盗み見る。
すると身を縮めて胸の前で両手を摩っていた。
この真冬にYシャツの上に白いベストとブレザーを着てるだけの圭汰に対して、あたしはその上にコート、そしてマフラー、手袋と完全装備。
マフラー貸してあげようかな?
見兼ねたあたしは、速くなる鼓動を必死に抑えながら、マフラーに手をかける。
すると――
「あぁッ!笠井ちょっと待ってて!」
圭汰は突然叫んだと思うと、あたしの返事も聞かず真っ直ぐにコンビニに駆け出した。
マフラーか手袋買いに行ったのかな?
あたしは圭汰がしていたように、身を縮めて両手を摩りながら圭汰が来るのを待った。
何分もしないうちに、圭汰は戻って来た。
「ごめん!待たせたなぁ。ほら、これ」
差し出された圭汰の手には、ホカホカと湯気のたつ肉マンがあった。
「えっ?」
「あったけぇぞ☆」
そう言って圭汰は満面の笑みを浮かべて、口元からは白い歯を零した。
ドキンッ☆
見慣れているはずの圭汰の笑顔が眩しくて、あたしの胸はキュンと締め付けられた。
それは
あたしが恋した瞬間―――
❤End
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