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刑事は驚いた顔をしたがすぐに冷静な表情に戻った。
「君は自殺ではないと考えるんだね?」
先程とは微妙に口調が変わっていた。
私は小さく頷く。
「現場の状況がどうだったか、知ってるかい?」
私はゆっくりと顔を上げた。
由香が握っていたナイフは由香の指紋以外検出されなかった。
部屋には荒らされた痕跡はなく、何より一階には家族がいたのだ。
「でも、自殺なんて有り得ません。」
絞り出すように声を発した。
世間は由香の死を自殺だと決め付けていた。
確かに証拠は何ひとつない。
でも、由香には自殺する理由がない。
「自殺はないという根拠は?」
警察官の男は綺麗に剃られたあごをさすりながら私をじっと見つめる。
「…結婚が、決まってたから…。」
『ねぇ、見て。婚約指輪貰っちゃった。』
『うわ、凄い!ダイヤじゃん!』
『早く来月にならないかなぁ。奈々、私ね、今本当に幸せだよ?』
ボロボロと涙が零れる。
「自殺する要因なんて一つもありません。由香はあの時、誰よりも幸せでした。証拠がなくても、私は認められません!」
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