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今でも、信じられない。
どうして由香が死ななくてはいけなかったのか。
棺の中に眠る由香を見て、私は心底絶望した。
白い肌に残る、無数の赤い傷痕。
苦しかったに違いない。
痛かったに違いない。
幸せになれるはずだったのに。
一度止まった涙が、再び零れ落ちてくる。
私はハンカチで目を押さえながら、再度
「自殺は有り得ません。」
と言った。
刑事は数秒沈黙し、またあごをさすってから
「ご協力有難うございました。」
と軽く頭を下げた。
「あ、そうだ。」
男は顔を上げると、ごそごそと胸ポケットを探り、名刺入れを取り出した。
「何か気付いたことがあったら、連絡して。」
差し出された名刺。私はゆっくりと手を伸ばし、それを受け取った。
「辛いことを聞いてすまなかったね。」
そう言い残して、男は去っていった。
「東和…雅一。」
手に残った名刺を眺める。
名刺には名前から電話番号まで記してあった。
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