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日が暮れて幅の狭い川の水面がほのかに明るくなっている。
そんな中で空を見上げるように水芭蕉が浮いていた。
それに誘われるように見た空に漂う雲間から、透き通るように美しい鳥が現れ旋回しながらその影を増やす。まるで私の未練の数を表すかのように。
止まり木にしばらくいた淡色の鳥が、音もなく一気にふわりと舞って、あなたと同じように消えていった。
別れ、そして帰りを待つ私の想いが鳥とともに風に乗っていく。
それはしかしながら湾曲して、真っ白い煙りのような霧に包まれていった。
ああ、この想いがあなたに届くことはないのだろうか。
その時、
「それでも…」
最後に愛したあなたが言い残し去って行った光景が脳裏に甦った。
気付けば雲と私をさえぎるようににわか雨が降っている。
それがまだ残っている空から落ちてくる雨粒を見ながら泣いた。
にこやかに笑いながら…
「それでも泣いてはいけない」
この、あなたの言葉をほんの少しでも守るために…。
(終)
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