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あと数センチ横に移動すれば葵の身体に触れてしまうぐらいの距離にどうしようも無いほどに心臓は脈打つ。
私はその音が葵に聞こえないか不安で堪らなかった。
「到着、サンキュ。
ゆりあサマ」
気がつけば私と葵はバス停までたどり着いていて、葵は傘を私に挿し返す私は差し出された傘に右手を伸ばそうとするとちょうど乗るバスが到着する。
『いいわ、私はこのバスだから。
貴方は歩きでしょ?貸してあげる。
不要なら捨てて構わない・・お疲れ様』
伸ばそうとした手を下げ葵の顔を見ながら、軽く会釈をし私は鞄を雨よけに頭の上に置き、バスへと駆け込むとそのままバスの扉が閉まり私は近くの空いてる席へと座る。
『風邪引くんじゃないわよ・・馬鹿』
窓に凭れかかるように少し身体を傾け曇る窓ガラスに右手指先で“葵の鈍感”と綴り右手の掌で窓ガラスを拭き消し去る。
「・・雨も悪くねぇかも」
残された彼は彼女が残した傘を挿しながら、後から後から雨粒が落ちる灰色の空を見上げる
その横顔は笑っているように見えた。
ぎこちない、彼女の優しさが嬉しいとでも言うかのように。
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