触れられない唇と触れる唇。

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― 貴女は今から目の前の相手に口付けるでしょう ― 「さて、どうなのかねぇ」 んっと私に返事を求めるように白い紙を私の右手を掴みその掌に入れ顔を覗き込む葵の笑顔に私ははっとし首を左右に振り掴まれた。 手を離す 『どうも何も有り得ない。だって私は貴方が嫌・・っ』 否定の言葉を口にする私に対して葵は余裕の笑顔を見せたまま更に私との距離を縮める。 「ゆりあが有り得なくても俺がしたいって言ったら?」 『したいって・・』 『キスしたいって意味』 近づく距離に私は顔を引ききゅっと双眼を閉じると額に微かな痛みが走り、双眼を開くと葵はクスクスと楽しそうに肩を揺らした。 「なんて、んな顔しなくても襲わねぇから」 『・・っ・・馬鹿。大嫌い』 額に感じた痛みは葵が指先で私の額を弾いた痛み、からかわれた怒りと乗せられた恥ずかしさから私は葵をどなりつけ、思いっきり頬を叩くとそのまま葵を残しバス停へと走った。 『馬鹿、馬鹿・・大嫌い』 私は走りながら頬に涙が伝うのを感じた。 葵にとっては単なる悪戯でも私にとっては心が割れるように痛かった。 私は後ろを振り返らずにバス停に行くとそのままバスに乗り自宅へと戻った。 「あんな怯えた瞳されたら、出来ねえつうの」 ジンジンと痛む微かに朱に染まった頬を摩り葵は天を仰いだ。 右手に握られた白い紙はただ静かに風に揺らいでいる
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