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『やっぱり寝ていた。
にしても意外にきちんとしてるみたいやっぱり帰ろう』
ベッドを離れ部屋を出ようとすると重たく閉じていた。
葵の双眼が微かに動き私の右手を掴む、私は驚き振り返ると
葵の薄い唇が開き吐息まじりに何かを囁きかける。
『えっ・・・何?』
「・・行くなよ、俺の傍にいろ。何処にも行くな」
声を聞き取ろうと体勢を少し屈めた私の掴む右手を葵は引っ張るすると私はそのまま葵の胸の中に倒れ込む形となってしまい、あろうことか唇が重なってしまう。
じんわり汗を掻き熱のせいかいつもより熱い体温、身動きが取れなくなり私はどうしていいか分らず困ってると葵の部屋の扉が開く。
「お待たせ~あら、やだ。
私ったら」
『・・っいっいえ、私はもう帰りますから。
あのこれお見舞いです。
お邪魔しました』
しまったという表情を見せる母親の対して私は勢いよく、身体を離すと荷物を押し付けるように渡し、玄関までもどる。
靴を履くなり部屋を飛び出すとそのまま自分の家まで戻る為にバスに乗り込む。
『・・キスしちゃった、葵と』
席に着き無意識に唇に右手を当てる、私の唇には消しようのない葵の残した熱が鮮明に残っていた。
『ねぇ、誰に向けて言葉なのかな』
流れる景色を眺め静まってはくれない心音に刹那さが込上げ胸元をきゅっと掴んだ。
消えない熱が隠しようのない気持ちを露にする。
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