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「あんさ、見舞いサンキュ。
お袋から聞いて」
『別に、一応私のせいでもあるから。
気にしないで、それと勝手に部屋に入ってごめんなさい』
私は葵と顔をあわせないように身体の向きを変え、葵に背を向ける。
「で、聞きたいことあんだけど」
『何?』
躊躇うように話す葵に私は内心穏やかではなかった。
もしも葵があの瞬間を覚えていたら私はどう返せばと考えてしまう。
「・・ゆりあとキス・・した夢みたんだけど、あれってさ」
『あり得ないわ。ただの夢よ夢』
ドキッと心臓が弾みどぎまぎしながらも覚えていない葵に対する悲しみと微かな安堵感に胸をかき乱すと居た堪れなくなり私はもういいわよね、っと話を完結させ教室を逃げるように出て行くと足は屋上に向いていた
。
『・・馬鹿みたい。
葵が覚えてるなんてあり得ないのに』
手摺に凭れかかり今にも零れ落ちそうな涙を堪えるように、空を見上げると重たい屋上の鉄の扉が開く音がし私は手摺から少し身体を浮かせ扉のほうに背中が見えるように向きを変え手摺に前屈みになると足音はゆっくり近づく。
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