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『姫宮さん、邪魔してごめんなさい。
でも、嫌なの、何もしないまま、諦めたくない。
貴女と同じ舞台にも立たないで逃げて終わらせたくないわ』
「・・貴女。」
静まる会場、響くのはマイクを通した私の声。
私はそのまま葵に近づくと一定の距離を取り立ち止まる。
一度双眼を閉じひと呼吸おくと不思議と落ち着いた。
『私は貴方が嫌い、貴方のせいで私は私らしくいられない、変にドキドキするし苦しい思いもしなきゃいけない、苛々もする。
こんなの私らしくなくて何度も貴方が嫌いだと思った。
いいえ・・言い聞かせた。
でも、本当に嫌いなのは私だった。
自分の気持ちを見ない振りしたのは傷つきたくなくて、逃げて意地張って頑なに拒んで挙句の果てに貴方を傷つけてばかり。
もう逃げないって決めたの今更だとしても私は貴方が・・好き嫌いって思ってしまうほど貴方が好き』
自分の中の気持ちを言葉にすることは恥ずかしさよりも照れよりも刹那くて、いつの間にか私の頬には涙が伝っていた。
その涙を拭う右手は私よりも大きな手に掴まれ、力任せに引っ張られるとバランスを崩して倒れ込むように葵の腕の中に囚われた。
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