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『保健医ならまだ居るはずだろ?ほら、ここはいいからとっとと消毒してきなよ。ゆりあサマ』
いつもの私ならそんな言葉には従わずその場所に居残った筈、でも指先から痛みとは別の熱が体中に広がる感覚とドクンドクンと脈打つ感覚に頷き逃げるように生徒会室を出て行く。
「・・こんなの葵にとっては何でもない。
馬鹿みたい。お礼言えなかった」
私は微かに指先が紅く滲むのを見つめ振り切るように数回、首を左右に振ると保健室がある方向へと足を進めた。
彼の優しさには意味がない、私の中で大嫌いな彼が変化したのはあの時の彼の気まぐれな優しさに触れたせい。
「なんで、だって」
『助けってっていう顔してたから』
誰も気付いていないと誰も気付くはずないと思っていたこと
それを一番嫌いな彼だけが気付いた。
― 助けっていう顔してたから ―
きっとそんな昔のこと彼は覚えていない。
気まぐれにかけた優しさなど覚えているはずなどない。
私だけが覚えていてあの瞬間、確かに私の中で何かが変わりそして動いた。
そんな変化を与えた彼が嫌い。
そんな彼の気まぐれな優しさに翻弄される自分が嫌い。
覚えているのはその言葉、微かに乱れた彼の息遣い、ただそれだけだとしても。
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