~集の章~

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小屋に戻った主水に、直次郎が「権太から預かったんだが、八丁堀に渡してくれとよ」と、何か手渡した。 主水「何でぇこりゃあ?」 それは例の『こより』だった。それには包みがくくり付けてあった。主水はそれを掌に乗せ、ポンポンと軽く上下させると頷いた「銭か・・・」 そこへ影太郎が近付いて来て「蝶丸さんが、中村さんにと、これを・・・」赤絵馬を差し出した。 主水「蝶丸はどうした?」 影太郎「お仙さんのお尻を追い掛けて、また何処かへ行ってしまいました」 主水「しょうが無ぇなぁあの糞坊主・・・おい加代、これ焙れ」 加代「何よこんな時だけ。へんっ!」仕方無しに受け取った赤絵馬をロウソクの火にかざした。 主水がこよりを開けると、中にはこう書かれていた。 【鬼夜叉の月三とその子分、喜平と与吉。 この者達、江戸市中で幼子を次々と拐い、いずこへと売り払う悪逆非道な者なり】 晋松の眉毛がぴくりと動いた。 加代「一寸ぉ~八丁堀、何か出たわよ」 赤絵馬をぶん取った主水、浮き上がった文字を読んだ。 裏には【お絹】・・・頼み人の名だが、おそらくかどわかされた子供の母親であろう。 表には【北上 聖内】とあった。 主水「北上 聖内?こりゃおめぇ、騒ぎになってる寺子屋の・・・」 晋松「こいつ等だ!」 主水「何でぇ?じゃあ『仕事』ってぇのは?・・・しかし一度に二つか」 晋松「否、こいつ等はグルだ。今夜こいつ等を、『戌の会』の連中が殺るぜ。それに謎の三人組が、かぎつけてる」 主水「何だってぇおい!」 おきん「それじゃあたし達も急がなきゃ!」 キリキリと手槍を抜きかけ、刃の状態を確認する錠。 平内「だがこれだけ騒ぎになってるのに、奉行所が全く動かねぇってのは解せねぇな」 唐十郎「何か有るな」 頷く主水も同じ思いであった。何か危険な匂いを感じ取っていた。 村雨の大吉「どうするんだよ八丁堀」 「んん・・・」主水は、すっかりと無精髭が生えた顎に手をやり摩ると、ジョリジョリと音を立てた。 村雨の大吉「はっきりしねぇなぁ~!」と頭を掻いた。 主水「おい玉すだれ」 影太郎はフッと笑うと「わかってますよ」と、蝶丸から預かった『仕事料』を袖から出した。 主水の前に在る樽の上には、本然寺からと赤絵馬の頼み料・大小様々な金が置かれた。 「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」金を数える加代の手。 半兵衛「やる気かい?」 勇次「だがまだ裏が取れて無ぇぜ」
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