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中学の時が顕著で、集団無視やら落書きやらで、一緒に登校するこちらにまで被害を及ぼすほどのいじめられっぷりだったが、彼女はそんなことには屈しなかった。
それに対する行動は、和解ではなく相手を威圧するものだった。
そして、事故。
そのときに彼女の強さを実感したのである。
だから、今も一人で寂しいなんて思わず、一人でバイオリンを弾き続けているのだろう。
ふと、朝のバイオリンが聴きたくなった。
小学までは、彼女の練習を聴きに行ったりしたものだが、中学に入ってからは、ちょっとした諍いを機に、友人付き合いやら何やらで忙しくなって、朝とは疎遠になってしまったのである。
今付き合っている彼女は、どこかの喫茶店で朝と会ったとかで、どういうことか仲良くなったらしく時折会うようだが、こちらはもう朝とは何ヶ月も顔を合わせてない。
もう勉強をする気になれないし、眠るつもりもない。
今日は運良く日曜日だし、もし練習をしているなら、隅で聞かせてもらえたらいいのに。
そう思いながらカーテンを開けると、思った通り、目の前の窓は明かりが漏れていた。
下から回って行くと、両親が気づくかもしれない。
机の上にある消しゴムを手に取ると、窓を開けて、投げる。上手いこと明かりが漏れている窓に、軽い音を立てて当たった。
体の芯まで染みていく冷気が部屋に流れこんでくるのを感じながら、今更気づく。
バイオリンの練習をしてるなら、あんな小さな音が聞こえるはずがない。
馬鹿なことをしたと溜め息を吐いて、窓を閉めようとした。
「何してるの?」
冷え切った空気に、高いのに無理に押さえた声が窓の向こうから聞こえた。
振り返ると、窓が開いている。
白いセーターに、長い漆黒の髪がよく映えて見える。アーモンド形の目に収まっている瞳は鮮やかな緑だ。生まれつきのもので、これもいじめの原因の一つである。
結構な美人なのだが、今は不機嫌そうに歪められていた。
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