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庭に着くと 桜の花びらがよりいっそう舞っていた。空を花びらが支配する―――その幻想的な風景を少し目を細め、暫く眺める。
辺りの木々が桃色に染まっていて なんだか春だなと今頃感じる。
しかし 僕の中の季節はずっと冬だ。冷たい風が吹き荒れていてもうそれは風の次元を越えて竜巻になっている。おまけに雷雨まで。もう僕は崩壊寸前だ。いや何が崩壊するのかはわからないけど なんかヤバい。
ここらでこの状況をいい方向に向けられる 女の子が現れれば―――――
そう思った時、いきなり強い風が吹いた。
ビュゥゥウ
それは、花びらを全て奪い去るくらいの勢いで 木々を揺らし、地に落ちている花びらまでもを舞い上がらせた。
「わぁ!?」
辺りは一瞬、桜の花びらだらけになった。そしてよく見えない視界の中で僕は見た。
美少女を。
その少女は長い黒髪を横に一つで結んでいて 意思の強い瞳に 銀色のセルフレームの眼鏡をかけている。桜と似合う。まるで花びらが少女を囲んでいるようだった。風が少し弱まり もう一度少女を見てみる。やはり、美少女だ。僕から見ると、横顔しか見えないが それだけでも美人だと言うことがわかる。
僕の視線を感じたのか、少女は僕の存在に気が付き、顔だけをこちらに向けふりかえる。
その瞬間。
バキュ―――――ン
と僕の中の何かが射ぬかれた。すると急に全身から汗がでて 顔に熱が集中した。多分、真っ赤だったと思う。
『一目惚れ』
をした。少女は僕のことを暫く観察してから一歩ずつゆっくりと近付いてきた。そのたびに高鳴る鼓動。僕との距離が一メートルくらいになったところで 少女は口を開いた。
「体育館はどちらですか。」
その外見と合う端正な声。
僕はにっこりと笑うと 丁寧に教えてあげた。
「ここ真っ直ぐ行って暫く歩いて右に曲がるとあるよ。」
あれ?丁寧だったかな これ。とテンパりすぎて大雑把に教えてしまった。が、少女は理解して(多分)、軽く笑みを溢した。その笑みを見た瞬間、抱き締めたい衝動にかられた。
「大好きぃぃぃ―――!!!」
そう叫んで 両手を広げ少女に飛び付いた。顔は緩み、これ以上目尻が下がらないと思うほど下げて。少女は目を見開き 数秒間固まった。そして事態に気付いたのか、急に悲鳴をあげながら必死に僕をふりはらった。
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