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作業服の彼は、そんな男には目もくれず、ただ作業を続けていた。 そんな彼の側にコートの男はゆっくりと歩み寄り、張り付けたような笑顔でこう切り出した。
「いやぁ、どうもエンジンの調子が悪くてね。
ココは車の修理もしてくれるのかい?」
彼は、そんな男の問いかけなどまるで聞こえていないかのように作業を続けていたが、ATのコクピットに上半身を突っ込んだまま、くぐもった声でこう切り返した。
「軍人さんなら軍の整備士がついてるだろうに。 ここでは高くつくよ。」
「ほほぅ、なぜ軍人だと?」
「民間人がわざわざこんな所まで車でこないよ。 それに、靴がピカピカだ。」
そう言われた男は、被っていた帽子を取り、自分の靴をみて、少しおどけたようにこう言った。
「なるほど。全部お見通しってわけかい‥。案外似合ってると思ったんだがねぇ。
オーケー!なら単刀直入に話をしようじゃないか、
ガルロ・シェファード。」
そう呼ばれた彼は、油で汚れた顔を初めて男の方へ向けた。
「オレもずいぶん有名になったもんだな。 そういうアンタは?」
「私の名前はゲイブル。 察しの通り軍人だ。」
「ふぅ~ん‥」
そう頷くとガルロは作業台から飛び降り、男の横を通り過ぎて乗ってきた車を見ながら再び問いかけた。
「で?ゲイブルさん、用件はなんだい?
実戦で試したいパーツでもあるのかい?」
ゲイブルは少し困ったように周囲を横目でうかがいながら、こう答えた。
「ここではなんだから‥
少し奥で話さないか?
車の修理代ならいくらでもある。」
ゲイブルと名乗った男は一層の笑顔を浮かべてそう言った。
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