悲劇

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 放課後、聖世は玲旺に呼び出され図書館に訪れていた。  しかし、聖世の怒りは今だ収まってはいない。 面倒そうな様子で誰もいない図書館の椅子に腰掛け、茶色いテーブルに肘をついている。 向かい合って座っているのに玲旺とは視線を合わせようともせず、不愉快な表情を隠そうともしない。 「ごめん、聖世。俺が悪かったよ。からかうような事して」 「………」  聖世は何も答えない。 「ホントにゴメン。もうしないから!」  玲旺は手を合わせてこの通り!と頭を下げた。 聖世は冷たい視線で玲旺を一瞥すると呆れたように息一つ吐いた。 「私は君と遊びに来ているわけじゃない!そこら辺の事ちゃんと肝に銘じておけ!」  完全に機嫌が直ったわけではないが、いつまでもそうしていても仕方ない事は聖世自身も良く分かっていたので、不承不承ながらも玲旺と顔を合わせて話をする態勢をとる。 「で……今度は誰なわけ?」  声を潜めて早速本題に入った玲旺は聖世がいつになく難しそうな表情の聖世を見つめた。  玲旺はポセイドンの生まれ変わりであり、ゼウスが遣わした監視人でもある。 何も海神ポセイドンを監視人にしなくたって、もっと他に適当な人材はいただろうに、と思う。 聖世の本音を言えば、一番一緒にいたくない人間が監視人なのだ。  ゼウスにポセイドン自ら、メドゥーサの監視をしたいと言い出したという事実を聞いたのはつい最近の事である。 現代の海に神話の時代のような危険はないし、ポセイドンのような大神が自ら志願してくれているのに断わる理由もない。
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