悲劇

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 かくしてポセイドンはメドゥーサと共に聖世の幼馴染みの玲旺として生まれ変わり、監視人として常に行動を共にしているわけだ。 (なんという事だろう。コイツでなければ誰でも良かったのに)  口には出さないが本音である。 口に出して気持ちをぶつけたところで玲旺は理解しない。  知る人は少ないが、もともとメドゥーサはポセイドンの愛人だった。 しかし、それについてはあまりいい想い出がないのだ。  聖世は、メドゥーサがアテナに呪いをかけられたのは、ポセイドンの愛人だったからではないかと思っている。  自慢の美しかった髪は蛇に変えられ、世にも恐ろしい怪物と呼ばれるようになった。 とても惨めで誰にも会いたくなくて、人の来る事のない洞窟に身を隠しながら生活をしていた。 そっとしておいて欲しかった。それなのに……。 見る者を全て石に変えるおそろしい怪女になった後もアテナの気持ちは収まらなかったらしい。 ペルセウスに力を貸し、首を切らせ、挙句の果てには、アテナの楯の真ん中にメドゥーサの顔をはめこんだ。 まるで見せ物のように。 あの屈辱は呪いを解いてもらって人間として生まれ変わる事が許された今でも忘れる事は一生、出来ないだろう。 そんな想いをしてきたせいか、目の前にいる男を憎く思ってしまうのは仕方ない事なのかもしれない。 時には殺意さえ抱く事があったほどだ。 しかし、聖世には分かりすぎるくらいに分かっていた。
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