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「ホイ、隼人」
「ん」
隼人は仲のいい男子五人と階段の踊り場でヘディングパスをやっている。
サッカーボールが少年達の頭によって規則正しく跳ねていた。
ボールを落とした人間が今日の昼食のパンを購買に買いに行くのだ。
そんな罰則を付けたものだから、自ずとみんなやる気満々だ。
羽田から隼人、隼人から渡辺、渡辺から清水、清水から山田、山田から降旗、降旗から羽田……単調なパスが続くはずだった。
しかし山田は下の階から階段を登ってきた人物に気を取られて降旗に回さず、隼人に回してしまった。
隼人も自分に回されると思っていなかったから反応が遅れ、変な方向にボールを飛ばした。
ばこ!
ボールの飛んで行った場所には隼人の仲間はいなかった。
それなのにボールが跳ね、ポンポンポンと床に転がった。
その場にいた隼人の仲間は誰一人として口を開こうとしない。
嫌な沈黙に包まれている。
その視線はただ一人に注がれていた。
視線の先には階段から登ってきたらしい制服姿の女子生徒が頭を抱え、しゃがみ込んでいた。
どうやら隼人の上げたボールは階段を登ってきた女子生徒の頭に直撃してしまったらしい。
すぐに状況を飲み込んだ隼人が女子生徒に謝ろうと駆け寄る。
「ゴメン!大丈夫?」
隼人の声に女子生徒が顔を上げた。
その刹那、隼人の視線が女子生徒の大きな瞳とかち合う。
その瞳に吸い込まれるような感覚に陥って隼人は動けなくなる。
女子生徒の可憐な容姿に目を奪われた。
可愛いとは少し違う。
神秘的な美貌だった。
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