悲劇

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茶色味が帯びた黒目はどこまでも澄んでいて、奥まで引き込まれていきそうな気持ちにさせられた。 肌の色は透けるように白く、まるで血が通っていないようにさえ見える。 それなのに頬がうっすらとピンク色なのだ。 形の良い唇は口紅を塗っているわけでもないのに艶やかに赤くて柔らかさそうだ。 イマドキの女子高生のように化粧をしているわけでもない。 天然の美しさに目が奪われて隼人は何も言えなくなった。 「私の顔に何かついている?」  不快そうに女子高生が隼人の視線に抗議した。 「いえ、綺麗です」 「は?」  女子生徒は隼人の言葉に驚いて呆れたような声を出した。 隼人は焦って口を押さえた。 そんな事を言うつもりじゃなかったのに、つい本音が口から出てきてしまった。 「あ、ごめん。そうじゃなくって……あの」  しどろもどろに言い訳をしようとするが、口を開けば開くほど墓穴を掘っている気がする。 そんな隼人を気の毒に思った羽田が助け舟を出した。 「神無月さん、ごめんね。コイツ、シャイだからさ。神無月さん見て緊張してるんだよ」  羽田の言葉に聖世は立ち上がって隼人を見つめる。 大きな瞳の中には隼人の姿が映っていた。 隼人は羽田の言葉を聞いて納得した。 (そうか、この子が噂の転校生か。これは確かに騒がれるだけの事はあるな) 「別に大した事ないから平気」  何て耳に心地よい声だろう、隼人は聖世の声に聞き惚れた。  立ち上がった聖世は何事もなかったように軽い身のこなしで自分のクラスに戻って行った。 その後ろ姿を見送りながら隼人の口から溜め息が洩れた。  聖世の艶やかな長い髪が歩くたびに、まるで生きているように背中で波打っていた。 「何だか、髪が生きているみたいだよな…凄く綺麗……」  隼人は知らず知らずのうちに呟いていた。 すぐにハッと我に返って気まずい気持ちで周りを窺ったが、幸いな事に、そんな隼人の恥ずかしい独り言を誰も聞いてはいなかった。 その場にいた全員が同時に溜め息をついた。視線は聖世に釘付けだ。 「あーあー……キレイだなぁ」  羽田の呟きを聞きながら、男なんて考えている事はみんな一緒なんだな、という事を隼人は心から実感したのだった。
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