悲劇

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「あの……今日一緒に帰りませんか?途中まででも」 「今日は放課後、国研に行かないといけないんだよね」 「待っています!」 「え?」 「俺、どうしても神無月さんと話したいんです!」  一歩、間違えるとストーカーのようなしつこさに聖世は困ってしまった。 聖世にここまで踏み込んでこようとする人間は今までいなかった。 玲旺の存在や聖世の取っ付き難さが原因であるが、この伊東隼人と言う人間はそういた事には頓着していないらしい。 「遅くなるし、待っていてもらう理由が私にはないよ」 「俺にはあります!」 「大体、住んでいる場所だって同じ方向とは限らないのに一緒に帰れないよ」 「遠回りになっても構いません。途中まででいいんです。神無月さんはどこに住んでるんですか?俺は東吾妻っていう所に住んでいるんです」  聞いてもいない事をペラペラと話し出す隼人に面食らいながらも、隼人の言葉に息を呑む。 「伊東君は東吾妻に住んでいるの?」 「はい。そうなんです。もしかして神無月さんも東吾妻に住んでるんですか?」 「違うよ。ただ知り合いがそこにいて……」  そこまで言いかけて聖世は黙った。 わざわざ隼人に話すまでもない事だと気が付いたからだ。 聖世が何か言いかけて黙り込んだのに気が付いた隼人は聖世の顔を見つめる。 「ごめん。とにかく、今日は一緒に帰れない。だから待ってもらっても困るよ」  聖世は隼人を振り切るように言い切って教室に戻っていった。 その背中に隼人は切ない視線を向けながら声を掛ける。 「それじゃ、明日!明日、一緒に帰りましょう」
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