プロローグ

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 その火はあっという間に燃え広がった。  宏美は愛らしい我が子を抱きしめ祈った。 夫の政信が息子の嘉晃(よしあき)を抱きかかえて宏美の方に駆け寄った。 「駄目だ!思ったより火の手が早すぎる」  部屋の入り口はもう燃えてしまって、ここから出る事もかなわない。 「あなた……せめてこの子達だけでも」  助けてあげたい、宏美は最後まで言葉を紡ぐ事は出来なかった。 膝を付きその場に倒れ込む。 一酸化炭素を大量に吸い込んでしまった宏美はそのまま意識を失い、倒れた拍子に抱きかかえていた赤ん坊が床に転がった。 驚いた赤ん坊が泣き出す。 「宏美!」  慌てて政信が宏美を抱き上げる。 しかし、政信もここまでだった。  妻と折り重なるように倒れこみ、そのまま政信も意識を失ってしまった。  もはや、ここまでか……こんなところで一家全員、死んでしまうのか?  政信の脳裏には走馬灯のように今日まで家族と過ごした幸せな日々が思い出される。  自分がここで死んでしまうのは仕方ない。 自分達は充分に生きたのだから諦めもつく。 しかし、我が子だけはどうしても助けてやりたかった。
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