悲劇

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沢村の背後には、それほど大きなティータン神族の存在がある、少なくとも聖世はそう感じていた。 (何かある。ゼウスの奴、何を考えていやがる?)  玲旺ですら感じる今回の仕事の異質さ。 それは今までとは桁違いの力を有するティタン神族の存在が見え隠れしているからではないか? 誰もいない廊下の壁に寄りかかってある人物の出現を待つ。 「多田先生!」  玲旺は目の前を歩いている副担の多田を呼び止めた。 「あら、水谷君。どうかしたの?」 「俺、多田先生に聞きたい事があって待っていました」  端整な容貌の男子生徒に声を掛けられて多田は胸をドキドキさせた。 「何かしら?」  首を傾げて玲旺を見返す多田は二十五歳の美人教師だ。 勿論、独身である。  玲旺は何も言わずに多田の右手に触れた。 「え?何?」  多田はパニックになる。 自分よりずっと年下の生徒に手を触れられて何をする気なのか想像もつかなかった。 「ちょっと失礼」  玲旺の手が多田の額に伸ばされる。 玲旺の目が青く光っていた。 「水谷君……その目の色……」  多田は最後まで言葉を紡ぐ事は出来なかった。 多田の体から力が抜け、表情が消えた。 多田の人形のような目には何も映っていない。 口をだらしなく空けたまま放心する多田の脳から玲旺は情報を引き出し自分の中に取り込んだ。  情報が恐ろしいほどの早さで玲旺の中に入ってくる。  大量の情報量の中で玲旺の目当ての情報を探す。  しばらくして、玲旺の唇の端が満足げにつり上がった。 どうやら探していた情報を見つけたようだ。  玲旺は放心している多田を立たせ、術を解く。
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