悲劇

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「多田先生、有難うございます。知りたかった事は先生のおかげで全部分かりました。さようなら」 「え、え?あら?……さようなら」  術の影響で訳も分からず呆然としている多田をそのままに玲旺は走り出す。  聖世に早く教えてあげたい!その気持ちの一心で。 「ああ、神無月、まだ残っていたのか。水谷は?」 てっきりもう帰ったかと思っていた存在に沢村は驚きを隠さなかった。 「水谷くんは用があるって先に帰りました。私も帰ろうと思ったんですけど……一応、声を掛けてからの方がいいかと思って」  聖世は沢村に古文の訳を書きこんだ沢村専用のノートを返しながら沢村を見た。 「だが、こんな時間まで残っている必要ないのに」 「今日の授業で出された課題をやっていたので、こんな時間になっているなんて気付きませんでした」  沢村は国語研究室の机に広げられている他の科目のプリントやノートに目を落とした。 時刻は七時を回っている。外は暗くなり、街灯の明かりが点き始めていた。 「神無月は真面目なんだな」 「そんな事ありません」 「この辺は物騒なんだ。少し待っていてくれるなら家まで送っていくよ」  最近はこの辺も物騒になっている。 民家がないせいか帰宅途中の女子高生を狙った変質者がうろついているらしく、つい二日前にも痴漢騒ぎがあったばかりだ。 それだけではなく、この一ヵ月の間にこの周辺に住む若い女性が二人も行方不明になっているのだ。 東筑摩高校の学生ではないものの、学校側でも注意を呼びかけているし、部活などもこの事件が落ち着くまでは六時までとしている。 帰りも一人では帰らないようにと指導しているのだ。 それなのに聖世のような女子生徒が一人で帰ったりしては格好の餌食になるだろう。 「そんなご迷惑かけられません」
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