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聖世の言葉に沢村は眼鏡の奥の細い目を瞬かせて聖世を見た。
「いや、もしこのまま一人で帰して神無月に何かあったら、それこそ問題になるんだ」
最近、世間の風当たりが学校にも厳しい。
様々な教師の問題行動やニュースになるような事件が続いたからだろう。
「それに偶然にも私の住んでいるところが神無月の目と鼻の先なんだ」
担任になって聖世の調書を見た時に気付いたのだが、聖世は沢村の住んでいるマンションのすぐ近くにあるアパートに一人暮らしをしていた。
聖世は生まれてすぐに両親を無くしている。
その関係で親戚をたらい回しにされているのか、転校の多い生徒だった。
調書を見た時にも驚かされたが、中学の三年間で四回の転校をしている。
高校に入学してからも半年もしないうちにこの高校に転校している。
よっぽど問題行動のある生徒かと思えば、全くそんな事はない。
イマドキの高校生からは考えられないほど聡明で美しい生徒だ。
「先生の住んでいるところと・・・・近いんですか?」
聖世も驚きを隠せないようだった。
「そうだよ。南原にマコトパレスっていうマンションがあるのは知っているかい?私が住んでいるのはそこの五階なんだ」
「あ、確かにすぐ近くにありますね」
南原とは聖世が住んでいるアパートの町名である。
聖世は南原にある若草荘という築三十年になる古いアパートに身を置いていた。
そこはかろうじて風呂とトイレが部屋にあるといった程度の1DKだ。
一方、マコトパレスは家族向けのセキュリティがしっかりした大きなマンションで、若草荘から二分と離れていない所にある建物だ。
何て奇妙な偶然だろう?
いや、偶然なのか?
あのボロアパートを用意したのはゼウスだった。
そこに何か意図が働いているのではないか?
(ゼウスの奴……私に何をさせようとしているんだ?)
嫌な予感がする。ゼウスがとんでもない事を聖世にさせようとしているような……そんな予感。
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