悲劇

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「玲旺、もう出てきていいよ」  聖世の声に不機嫌な表情の玲旺が門柱の後ろから姿を現した。 「なんて顔しているんだ?なんか嫌な事があったのか?」 「聖世、アイツに対する態度と俺に対する態度が随分違うんだな」 「はあ?」 「あんなに素直に……俺にはいつだって憎まれ口ばかりなのに」  聖世は疲れた表情で一つ息をついた。 「君はアホなのか?アイツは調査対象者だ。馬鹿な事言っていないでついて来い。話す事があるんだろ」  聖世が自分の部屋に向かって歩き出す。 玲旺は膨れっ面のまま聖世の後についてきた。 「入って」  何もない部屋に玲旺を通すと聖世は制服のブレザーを脱いでハンガーに掛けた。  玲旺は慣れた足取りで聖世の部屋の真ん中にある丸い折りたたみテーブルの前に座る。 それを黙認しながら、聖世は小型冷蔵庫から五百ミリリットルのペットボトルを取り出すと玲旺に投げて渡した。 「緑茶でいいよね」  自分も同じ種類のペットボトルを手に玲旺の前に座る。 「で?何か分かった?」 「まあ、ね」 「誰の記憶から探った?」 「副担の多田から」 「ふ~ん。いいんじゃない?多田なら沢村と話す事も多いだろうし、ね」 「聖世はアイツの奥さんが死んでいるの知っていたか?」 「うん。二年前に、だろ?沢村が言っていたよ」 (アイツめ、教師の癖に聖世に自分の弱みを見せて同情を誘おうとしたな、それとも気を引こうとしたのか?) 玲旺は本気で沢村に対して腹を立てていた。 「死んだ理由は聞いた?」 「聞けるか。そんな事。大体奥さんが亡くなっていたのを聞いたのだって偶然だったんだからな」  聖世の言葉に玲旺の努力が報われたような気がした。
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