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「多田の記憶から手に入れた情報によると……奥さんはアイツの運転する車で事故に遭って死んだんだ。対向車線を走っていた車が突っ込んできたのを避けようとして電柱にぶつかったらしい。助手席に乗っていた奥さんは即死。アイツは全治一ヶ月の怪我で助かったんだと」
「事故、ね」
「それだけじゃなくってさ。奥さんというのがちょっと変わっていた。新婚っていうのもあったんだろうけど、凄いヤキモチだったらしいぜ。多田も誤解されて迷惑だったってさ。二年前の多田は新卒で沢村がいろいろと指導に当たっていたらしいんだ。それを誤解されたらしくってさ、しょっちゅう嫌がらせの電話が来ていた」
「誤解か。へえ、そんな事があったのか」
聖世は何か考え込むような仕草をした。
「心当たりあるのか?」
「どうかな。似ている人なら知っているけどね」
「似ている人?」
「ケパロスとプロクリスって知っている?」
感情の読み取れない口調だった。
「ケパロスとプロクリス?」
聖世は玲旺に頷いて見せた。
「地上にいた人間だったから玲旺が知らないのも無理ないかもね。有名な話でもないし」
そして聖世は落ち着いた口調でギリシャ神話に出てくる一組の夫婦の話を始めた。
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