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今年五歳になったばかりの嘉晃(よしあき)と生まれて五ヶ月に満たない聖世(せいよ)。
二人は何にも替えがたい宝だ。
もし、この世に神という存在がいるのならこの子達だけでも助けてはくれないだろうか?
火は収まる事なく部屋の大方を焼き尽くした。辛うじて家族四人が燃えないでいるに過ぎない。
ゴウゴウと炎が燃える音と聖世の泣き声が重なり合って嘉晃は混乱した。
「パパ、ママ……?」
乾いた唇からようやく出た言葉に答える声はない。
「聖世……」
嘉晃は床で泣き続けることで自分の存在を訴える聖世に目を向けた。
床に転がり、今にも火が燃え移りそうな聖世をそっと抱き上げると、抱き上げられたことに安心したのか聖世が泣き止んだのだ。
そして嘉晃を見て……笑った。
それは天使の微笑み。
嘉晃は目を疑った。
こんな時なのに、もう助からないかもしれないのに、この命はなんて強くて愛しいのだろう。
「聖世、お兄ちゃんが守ってやるからな!」
半ば自分に言い聞かせるように聖世を抱きしめた。
聖世、僕が守ってあげる。
心の中で何度も繰り返し呟いた。
嘉晃にはそれから自分がどうなったのか分からない。
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