悲劇

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「さあ、そよ風よ。ここに来て私をあおいでおくれ。どれほど私がお前を愛しているか、お前は知っているはずだ。林の中も寂しい一人歩きもお前があるので楽しみなのだ」  こんなふうに語り続けているうちにケパロスは藪の中ですすり泣きのような声を聞いたような気がしました。  きっと野獣だと思ったので、そこに目がけて、あの投槍を飛ばします。 良人の放った槍に貫かれてプロクリスは悲鳴を上げて倒れました。 ケパロスは声のした方に駆け寄りました。 すると、そこにはプロクリスが血塗れになっていました。 弱りながらも自分が良人に投げつけられた投槍を抜こうとしています。 ケパロスは妻を抱き起こして出血を止めようとしましたが、プロクリスの命は今にも消えかけていました。 「よみがえっておくれ。私を後に残して憂き目を見せてくれるな。お前を死なした咎を責めてくれるな」  声の限りに叫びました。 その声にプロクリスは弱々しく目を見開いて、これだけの事が言えました。 「後生ですから、もしこれまであなたが私を愛してくださったのなら……あなたに愛されるだけの値打ちが私にあったのなら、どうぞ最後のお願いをかなえて下さい。その憎らしい『そよ風』とは決して結婚しないで下さいな」  そのプロクリスの言葉で何もかも不審が晴れました。 しかしケパロスはそれを弁解して真実を話してあげる事は出来ませんでした。
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