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いつも端整な顔にキツイ眼差しの聖世にしては珍しい事だ。
メドゥーサの頃の聖世は、玲旺に今のような優しい瞳を向けていた。
その時は気付かなかったが失った今になると、それがどんなに貴重な事かが分かったような気がした。
そのせいだろうか?
玲旺は聖世とまだ話をしていたかった。
それが個人の話ではなく、あくまで仕事に関してだったとしても。
「俺、アイツを泳がせておくつもりだから」
「ん?」
何を言い出す気だ?と聖世が玲旺の考えを窺うように見つめている。
「アイツのうしろに黒幕がいるんだろ?だから、しばらくは沢村を泳がしておいて、そいつらも一気に片しちまおう」
「どうしたんだ?珍しくやる気じゃないか」
驚いたような聖世の表情。
この仕事を始めてから初めて見る玲旺の積極的な姿だった。
何を企んでいるんだろう?と思ってしまうのが哀しい。
「何だよ。不満そうだな。俺の手伝いなんて要らないか?」
「いや、有難いよ。正直言えば、今回の件は私一人の手には余ると思っていたから」
「それならいいんだけどさ」
玲旺はこの学校に長くいたくなかった。
この学校には聖世に近付いて来る不届きな輩がいる。
たかが人間の分際で、自分の立場を省みず、聖世に声を掛けてきた。
それだけではない。
聖世自身、沢村に同情のような念を抱いている節が見られる。
こんな事は初めての事だ。
聖世はいつだって冷静で敵に同情なんて抱くような人間でなかったはずだった。
これ以上、この地に留まるのは得策ではない。
聖世の感情の一端が見え隠れする。
その事が玲旺を不安にさせていた。
このままでは、ますます聖世が玲旺から離れていってしまいそうな、そんな気がして。
「それじゃ、沢村の事は玲旺に頼もうかな」
聖世の言葉に玲旺はホッとしたように表情を崩した。
玲旺の気持ちに気付かない聖世は、玲旺の表情を見ながら、何で今回はこんなにやる気があるんだろう、と考えていた。
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