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「あ、住んでるって言っても、知り合いのとこに居候してる……流れで……現在に、至る……と言うか――」
こういった細かい部分に対する返答もさすがである、と言いたいところだが、語尾の濁し方を見るとまだまだ未熟である。
へぇ~、とシンクロしたように周りの女生徒が反応を返していると、
「三神さーん、お客さんだよー?」
教室の黒板側の出口の方から、自分を呼ぶ声が。
だが、三神という急に名乗る事になった名字に一瞬気づけず、
「……あっ、はい!」
一拍置いた後に慌てて返事をするという、ややおかしな挙動をしてしまった。
そして向けた視線の先には、
「やっほー、レナちゃん」
ポニーテールに制服という、人間界での日常スタイルになった麻美が手を振っている姿が見えた。
立ち上がって彼女の元へ近付こうとしたら、
「あ、マミ‥」
『妙崎先輩、お疲れしゃす!』
クラスの男子の三人くらいが、威勢の良い声で麻美に向かって頭を下げた。
「や、やめてよ、恥ずかしいから! ただのマネージャーなんだし……」
そうやって周りを恥じらいながら伺う麻美の様子を見るに、彼らはどうやら野球部員らしい。
「あー……で、どうしたの?」
傍まで歩み寄ったレナが、タイミングを見計らいつつ話しかける。ちなみにそうやっている様も背筋の伸びた凛とした姿で、生徒の数人が目を奪われていた。
「大した用がある訳じゃないけど……どうしてるのかなーって。どう? 問題無さそう?」
「うん、一応は。わざわざありがと――う――?」
レナが麻美の厚意に感謝の言葉を述べようとしたが、途中で歯切れが悪くなってしまった。というのも、目の前の人間界の先輩がキョトンとした表情になってしまったからである。
「どうかした?」
当然疑問に思ったレナが問いただすと、
「いやぁ、そのぅ……ノブ先輩にもそんな素直にお礼が言えればなぁ、と――」
そんな、校舎に入ってからは一度も意識していなかった部分をつつかれてしまった。
「っ!? ――あ、アイツは今関係ないでしょぉ……」
不意なタイミングで想いを寄せる少年の顔が浮かんでしまったレナは、本人がこの場にいないとは言え少し顔を赤らめながらうつ向く。クラスメイトから変に思われないように大声を出せない手前、その様子で「今その話題はずるい」と訴えているようだ。
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