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「まあ良いじゃん良いじゃん。自分の後輩の様子を見に来るくらいさ」
「はぁ……」
どこまでも自由なノブに、麻美は呆れながら返す。
すると、
「さーて、金髪美少女でテンションが上がってる内にぼちぼち始めるかぁ~」
野球部員の一人、現在の主将がぐるぐると腕を回しながらグラウンド中央の方へ歩き出した。
「じゃあ、私はジャージに着替えて来るから。レナちゃんはちょっと待ってて?」
それを見た麻美は通学カバンをフィールド外にあるベンチの脇に置くと、レナに向かってそう告げた。
「あ――うん」
レナはそれに対しカバンを抱えたままベンチに座り込み、コクンと頷き返す。
と、
「あ、それとノブ先輩」
麻美が何かに気付いたようにこちらを振り返り、
「いつぞやみたいに覗いちゃ駄目ですよ? あと、レナちゃんをいじめないで下さいね?」
さもいつもの調子だと言わんばかりに、ノブに向かって強めの口調でそう注意を促した。
「やんねーよ。いくらなんでも大志の嫁さんに対しては覗かねぇから、さっさと全裸になって着替えて来いって」
「ちょ、私が変な性癖みたいに言わないでくださいよ! レナちゃんに誤解されちゃうじゃないですか! はぁ――いってきます」
ノブがからかうような形となった問答を終えた所で、ため息をついた麻美は部室棟へ向かった。
「いやぁ~、それにしてもこの空間久しぶ……はっ」
「?」
久々の母校にほのぼのとぼやきかけたノブだったが、隣のレナの存在に何か思いついたようで、
「あのな? 覗きってのは昔の、ほんのむかぁ~しの話でさ、その時はちゃんとマネ達から制裁っつーか暴行を受けたから、お前からは何も喰らいたくないし、後輩の前だから俺の面子も守りたいっつーか……」
覗き、という単語にいつものようなレナの制裁というか暴力が脳裏に浮かび、慌てて弁明のようなものを始めた。
あたふたしている彼とは対称的に、レナの様子は落ち着いたもので、
「ああ――そんな昔の事を私が怒ったって意味ないのはわかってるわよ。それに、あんたを痛めつけたいとか思ってる訳じゃ無いし。……ほ、本当なら、手を出さずにもっと仲良く……」
歳の割に大人びた意見言った、かと思いきや一番言いたい本音の部分が濁ってしまった。
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