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「覗かねーよ! 俺のAなVのラインナップに人妻ものは無ぇっつってんだろ!」
「あの……ラインナップなんて聞いてないんですが……」
さも当たり前と言い張るかのようなノブの切り返しに、麻美が素に戻ってどん引きしていると、
「あれ、そうだったか? ――あ、何なら大志との夜の為に何本か貸すけど」
「でしたら是非……じゃない、結構です」
「おい、今乗りかけただろ。勉強は大事だぞ?」
「いえ、改めてお断りします。準備はイメージトレーニングで抜かりはありませんので」
「わーお、部員が練習中だってのに包み隠さず言い切ったよ、このマネージャー」
ノブと下ネタ混じりの軽快なやり取り。神界だと畏まってはいるが、本来の麻美はこういった会話もできる少女なのである。
そのまま、気持ちが落ち着き、顔を上げてキョトンとしながら様子を伺っていたレナをそのまま置き去りに、ノブは伸びをした。
「さぁて、と」
続けてベンチから立ち上がると、
「そろそろ行くわ。仕事も一件残ってるし」
羽織ったジャンパーのチャックを上げつつ、この場からの退去を宣言した。
「ふえっ、もう? ――あぅ」
これに思わず名残推しそうな反応をし、更にその己の行動が恥ずかしくなってしまい顔を再び赤らめるよくわからない自爆をしたレナに続き、
「あれっ、本当に様子を見に来ただけだったんですか?」
麻美が純粋な後輩として別れを惜しむような反応。
「そ。元々、仕事の合間がちぃーっと空いただけだしな」
その言葉に対し、ノブは苦笑いを浮かべながら、グラウンドのフェンス口へ向かう。ちなみに、仕事用の車は少しの間だけだと近くのコンビニに駐車してある。
そして背を向けて歩き過ぎながら軽く手を上げ、
「んじゃ、また今度‥」
「――あ、とか言っておきながら、まさかとは思いますが、女テニの覗きに来たとかじゃないですよね?」
別れを告げようとしたら、妙なタイミングで麻美が女子テニス部の名前を出して来た。
「…………」
言われた瞬間、ノブの歩みが止まる。
「む……」
ベンチに残っていたレナは再び素の状態を取り戻し、この反応の意味を察する。
――三者間の空間のみ、沈黙。
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