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「大志君……?」
先程とは明らかに様子が違う大志に、沙羅が隣から顔を覗き込む。リング上に釘付けになっているその瞳は、星マークが入らんとばかりに子供っぽい好奇の輝きを灯しており、今にも飛び出さんとばかりに身を乗り出していた。
「――ふふ」
幼さの感じるその様子に思わず顔を綻ばせていると、
“本日は、ご観戦いただき誠にありがとうございました!”
パチパチパチパチ――!
リング上でマイクを手にした赤スパッツが、試合後の挨拶をしていた。
“俺達UWAは、県内の大学に点在するプロレス研究会を統合した団体で、二十年以上の歴史があります。――しかし! 年々、新人の数が減少傾向にあります。ここ、駒ヶ谷大学の選手は現在私一人となってしまっていました”
「ん――?」
大志は試合の余韻を感じつつ、このマイクを今の今まで流し聞いていたのだが、赤スパッツの話題にピクリと眉が反応した。
“てな事で! 私達は常にレスラー、レフェリー、マネージャー問わず新人を募集しております!”
「――おお」
その野太く力強い募集の呼びかけに、目立った反応を一切見せない周りから浮くように、大志が感嘆の声を漏らす。
“プロレスに興味があるなら是非! リングサイドにいるメンバーに声をかけて下さい! 新人、待ってます!”
一通り喋りきった赤スパッツは、少し試合直後の息を整えるようにリングの上をグルリと歩くと、
“それでは最後に! プロレスのド定番、『1、2、3、ダー』で締めたいと思います!”
右手を掲げ、掛け声の体勢を作った。それに対し、暖まりきった客のほぼ全員も右手を掲げて続く。
“行くぞー! イーチッ! ニーッ! サンッ!‥”
ダアアアアァァァァ!!
そしてキャンパスの一角に響き渡る一斉の掛け声。
“ありがとうございましたぁ!”
拍手に包まれながら、学生プロレスの試合は幕を閉じた。
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