因縁のリング!?

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「ほっ」 ズダンッ 「ふっ」 ズダンッ 「よっ」 ズダンッ 入門宣言の三日後の木曜日。Tシャツにハーフパンツという動きやすい格好の大志は床に敷かれたマットに向かって、叩きつけられているように後ろへ倒れ込む受け身を一心不乱に取っていた。 「杉浦、そろそろ上がりにしとけよ? 首痛めんぞ」 「ふぅっ、はい」 先輩レスラー、この間の試合で実況陣よりキ○ウと呼ばれていた大学生に、短く返答を返して今まで受け身を取っていた場所を離れる。 ここは駅近く、大学のキャンパスから歩いて数分の市営スポーツセンター。学生プロレス団体UWAが普段使っている柔道場だ。ここは柔道場には珍しくスプリングが効く畳張りという、特殊な構造の練習場の為、激しく倒れ込むプロレスの練習には持ってこいの場所である。とは言え、他にも利用者はいるので、脇のスペースではキックボクシングらしい練習をしている一団もいる。 ちなみに、この先輩レスラーの正式なリングネームは亀○修(き○うおさむ)。駒ヶ谷大学とは別の大学の三年生で、一応この団体の代表をやっているらしい。本名は藤原というらしいのだが、この学生プロレスという特殊なコミュニティでは本名で呼ばれることは少なく、基本的に下ネタが飛び交うリングネームで呼び合っているようだ。 練習場のはずれ、板張りとなっている一同の休憩スペースに腰を下ろした大志がタオルを取ると、 「なぁ、杉浦」 ちょうど休憩であった、この前の試合の勝者でありマイクで締めた赤スパッツの学生が声をかけてきた。彼のリングネームは「秘密のケン○ョーショー」。駒ヶ谷大学四年にして、UWAに唯一存在するベルトの保持者で、要はチャンピオンである。 事実上の一番上の立場の人物からの呼びかけに、板の上に正座をしがら答える。 「はい?」 「んな正座なんかすんな。足崩せって。――で、お前本当に柔道とかの受け身の経験ないのか?」 そうやって聞いてきたケン○ョーは、興味津々といった表情で、ズイッと顔だけ進み出てきた。さすがは団体でずば抜けた体格だ、威圧感がある。
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