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「お疲れっす、宮田さん。ボクシング部の桜井っす」
「あー、やっぱそうか」
開口一番、自己紹介をしてきた男子学生に、ケンはご挨拶な事に少し顔をしかめた返答。どうやら彼の知り合いではなく、独特の刺繍の入ったジャージ姿を見てピンと来たようだ。そういえば宮田というケンの本名は初めて聞いた気がする。
大志がキョトンとしている間に、ケンと桜井と名乗ったボクシング部員の間で話が進む。
「恒例のアレの話をしたいんすけど」
「あー、今のウチの代表、キトウだからそっちに聞いてくんない? 多分もう中にいると思うし」
「うす」
「???」
話が見えない。それにしてもこの桜井、口調がフリットに似かよってると言うか、体育会系を絵に書いたようなしゃべり方である。
そんな事を考えてると二人が解りきった流れのようにスポーツセンターに入っていったので、大志は慌ててその後ろ姿を追った。
それから小一時間後、道場。
「杉浦ぁ、来週キックボクシングの試合頼むわ」
「えっ」
道場の入口付近で桜井と何やら話し込んでいた(とは言え九割方は雑談だったようだが)キトウは、戻って来るなり大志に一瞬では理解し難い台詞を叩きつけた。
容量が得ない大使がポカンとしていると、キトウはバツが悪そうに頭を掻いて説明を始める。
「いやな? 毎年部活紹介っつう体で、ボクシング部とうちの一年でエキシビジョンマッチしてるんだわ。お前にとっちゃ急な話なんだけどさ」
「ちょっ、あの、えっ――へ?」
唐突にも程がある。そんな恒例行事が存在する理由もわからないし、サークルに入って二回目の活動という早さで降って湧いた計画性ゼロな提案には怒りすら覚えても良いくらいだ。
と、
「ちょい待ち。お前、それは説明が下手くそ過ぎる」
大志の背後から、ずいぶんと落ち着いた声色の声がかかった。
彼の代わりに今日の教育係を務めていたヒョロッと背の高い三年、ドクトル・○ァギナー、通称ドクである。
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