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「あ……あれです……。あの兎……」
震える声で霊能者を呼ぶと、彼女は既に兎の方を向き、手を合わせていた。そして、先程よりは少し大きな声でお経を唱え始めた。兎は静かにそこに座り、そのつぶらな瞳で私たちを見つめている。蛇に睨まれた蛙のように、身体は緊張し、何かに縛られたように動けなくなった。
身体を汚してしまい、申し訳ありませんでした。
全て私が悪いんです。
私はどうなっても構いません。
お願いです。
どうか、かわいい弟を返してください。
優しいお父さんを返してください。
家族を返してください……。
「血が……」
心からの後悔と謝罪を兎に届くように強く念じている最中だった。
驚いたことに、目の前にいる兎の額からは血の跡が消えていたのだ。
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