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梅雨のこの時期、空にはどんよりと重い雲が立ち込め、夏の入りだというのに肌寒さを感じる。
私は雨が嫌いではなかった。排気ガス等で汚れた空気を、その小さな雫の一粒一粒が洗い流してくれているに違いないからだ。お陰で雨上がりの空気のなんと澄んでいることか。
「雨はね、神様が流した涙なんだよ」
以前付き合っていた彼女に真面目な顔でそう言われ、大嫌いになったことももはやいい思い出だ。
しとしとと降り続く雨の中を、あえて車には乗らず、傘をさしながら友人宅へと歩いていく。
「雨の匂いだ」
周囲に鼻を向け、人目を気にせず犬のように嗅ぎ回る。土の濡れた匂いやアスファルトが冷やされる匂い、植物の青臭い匂い……。これらを幼少の頃から好き好んで嗅いでしまう。もう立派な趣味と言っても過言ではなかった。
そんなささやかな楽しみを邪魔するあの独特の息遣いに気付いたのは、それから数日経った、ある雨の日だった。
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