蛇の牙は誰に噛みつく

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次の日、浩幸の姿は札幌のドームにあった。最下位の大阪オクトパスとの3連戦、これが浩幸の公式戦デビューとなる舞台である。 札幌ラーメンズは現在4位。ただ、首位の福岡ドンタコスとのゲーム差は3.5しかなく、その中に4チームがひしめくという混戦が9月上旬にも関わらず繰り広げられていた。 もちろん、この3連戦で取りこぼしはしたくない。急遽昇格した浩幸の起用については、点差のある場面で楽に投げさせる方針だった。 一軍の連中に挨拶を済ませ、浩幸は練習に参加した。投球相手は現在の正捕手、菅原。 オープン戦で一度組んだ捕手である。ベテランだが突出した能力はなく、消去法で生き残ったような、そんな捕手だった。 ブルペンで投げ込みを始める。投げるのはやはり高速ナックル。試投程度に軽く投げる。 菅原は後ろに逸らした。春以来となる、しかし今度は予告の上での菅原への投球。その逸らし方が捕る気すらなかったように見え、浩幸は何かそこに不穏な空気を感じた。 3球続けた。だが菅原はミットを緩慢に動かすだけで、球は全て後ろに飛んでいく。 そして菅原から出た指示を見て、浩幸は固まった。 それはただ直球を投げろ、という指示だった。
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