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浩幸は苛立たしげにマウンドの土を蹴る。そこに、タイムをとった菅原が駆け寄ってきた。
「そういえば、中原が言ってたっけなあ。おまえはすぐふてくされる奴だってよ」
目を合わそうとしない浩幸を見て、菅原は笑いながら言った。グラブで口元を隠した浩幸の顔に、目だけでそれとわかる強い憤りの表情が浮かぶ。
「その割にはすぐ投げてきたじゃねえか。いじけて投げないかと思ったけどよ」
「別に……」
いつもながらの皮肉な菅原の物言いを、浩幸は適当な態度で受け流す。
用があって来たわけではないと浩幸にはわかっている。立てる作戦などないのだ。持ち球は一つしかない。
間を取りに来たとしても、茶化されたのでは意味がない。早く帰ってほしいと思った。声には出さず視線だけでそれを促す。
「一つだけ言いに来た。俺はおまえを信じてる。だからおまえも俺を信じて投げ込め」
浩幸の意図を知ってか知らずか、真顔になった菅原が本来の目的を告げる。だが、それが浩幸を激高させた。
「信じてるなら、なんで勝負させてくれなかった!俺が水橋に敵わないと思ってんだろ!」
思わず敬語も忘るほどに、浩幸は興奮のままに怒鳴りつけた。
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